2018年07月16日

書架の探偵 ジーン ウルフ

書架の探偵 ジーン ウルフ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

人間の精神と肉体を完全にクローン化できる未来の話。図書館の書架に住まうE・A・スミスは、推理作家E・A・スミスの複生体(リクローン)である。生前のスミスの脳をスキャンし、作家の記憶や感情を備えた、図書館に収蔵されている『蔵書=蔵者』なのだ。そのスミスのもとを、コレット・コールドブルックと名乗る令嬢が訪れる。父に続いて兄を亡くした彼女は、死の直前、兄にスミスの著作『火星殺人事件』を手渡されたことから、この本が兄の死の鍵を握っていると考え、スミスを借りだしたのだった。本に込められた謎とは? スミスは推理作家としての知識と記憶を頼りに、事件の調査を始める・・・

設定で50%は勝利していると思ってしまう、SF作品。設定はSFだが、中身はミステリーになっている所が、素晴らしい。魅力的な混乱と不幸に襲われたヒロインと、才能に恵まれた探偵の登場という形式はミステリーの鉄板だが、それが書架に収められた作家でリクローンであるという設定が魅力を倍増させる。そして謎が謎を生む中、スミスの知人や元妻のリクローンも現れ、ストーリーを盛り上げる。これがまた、物語の魅力をさらに深めている。

この本は、著者の最新作との話だが、すでに80歳を超えているとのこと。なかなか素晴らしい。解説にあるように、作中の人物も懐かしい名前をリスペクトしている感もあって、二度おいしい本である。
posted by 灯台守 at 15:25| Comment(0) | TrackBack(0) | SF

2018年07月11日

幼年期の終わり アーサー・C・クラーク

幼年期の終わり   アーサー・C・クラーク (光文社古典新訳文庫)

何年振りかの再読。今回は、名訳と言われる福島さんのハヤカワSFではなく、光文社版で読む。解説もたっぷりだし年譜もある。お買い得。

ある日、地球は巨大な宇宙船の来訪を受ける。未知の宇宙船は何事もなく、大都市の上空にとどまり人類との交渉役に国連の総長を選んだ。彼ら「オーバーロード」は何をするため、この地球に来たのか、何を人類に求めているか・・・

クラークの名作SF古典と言っても良いだろう。文学に課せられた永遠の課題の一つ、「人は何処から来て、何処に行くのか」の一つの提案系ではある。読むたびに感想は変化し、蠢いていく。若いというか、幼い読者だった自分から変化秘、歳と経験を踏まえた今では、若いときには感じなかった点で、クラークが主張する事柄が染み入るように解るようになった気がする。人類の行く末と考えるか、はたまた違う観点からとらえるか、全く違う感想が持ち得る。

同じ様な切り口の話はあるが、ここまで昇華された思想的・未来的結末の話は二度と出てこないだろう。結果的にクラークは読者に問いかけてくる。「人は何処から来て、何処に行くのか」と。
posted by 灯台守 at 11:30| Comment(0) | TrackBack(0) | SF

2018年07月03日

銀河帝国の崩壊 アーサー・C・クラーク

銀河帝国の崩壊 アーサー・C・クラーク 創元SF文庫

数億年後の世界に、人類は不老不死の体を得てはいたが、ダイアスパーと呼ばれる都市の外には興味を失い、出ていくこともなくなっていた。その都市の最後の少年であるアルビンは外の世界に興味を示し都市の外に出ようとする。そこには先人のメッセージがあった。

かの名作、「幼年期の終わり」と同年に書かれたSF。数億年先という設定と、遥かなる宇宙と文明を描く筆致は「さすがクラーク」の面目躍如といえる。人類を二つの集団として描き、はるかなる宇宙とあこがれと好奇心を描きつつ、畏怖も書き込む手腕は素晴らしい。本書は絶版。複雑な構成やトリッキーなストーリーも無くシンプルであるところが現代受けしないのだろうか。
posted by 灯台守 at 19:27| Comment(0) | TrackBack(0) | SF

2018年06月19日

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上・下 ピーター トライアス

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上・下 ピーター トライアス (ハヤカワ文庫SF)

第二次世界大戦に日本が勝っていたらどうなったか・・・というお話。いくつか、この設定の話はあるが、歴史上のイベント・事象を綿密に把握した上で書かれているのでリアリティはある。

途中の話は、かなグロい描写もあるので、誰にでも進められるものではないし、日本人の描写もかなりエグい。ここまでの天皇崇拝が実施されたかどうかは、わからないと思うが、外から見ればそういう形にみえたのだろう。
ずっと引っかかっていた小骨のようなモノが最後のエピソードで分かるという締めくくりは見事だと思う。残念ながら、人に進めるポイントはそこだけなのが残念。
posted by 灯台守 at 16:22| Comment(0) | TrackBack(0) | SF

2018年06月16日

都市と都市 チャイナ・ミエヴィル

都市と都市 チャイナ・ミエヴィル ハヤカワSF文庫

読み終わって、主人公は「都市」かもしれないと思ったくらい、架空の都市「ベジェル」と「ウル・コーマ」の雑踏が、路地が、行き交う人々が見えるよな気がした。

欧州において、特殊な都市国家である「ベジェル」と「ウル・コーマ」。同一の場所にあり、お互いの領土がモザイク状に絡み合う2つの都市国家では、お互いを「見えて」いながら「見てはいけない」という文化が面々と継承されてきた不思議な場所だった。そんな「ベジェル」で一人の若い女子大生の遺体が発見される。ベジェル警察のティアドール・ボルル警部補は、二国間で起こった不可解な殺人事件を追ううちに、二つの国の謎に迫っていく。

たぶん、この設定が無ければ、ただの警察小説である。警察小説としては、やや上くらいのレベルだが、その情景描写は摩訶不思議な世界が展開される。2010年代と思われる状況の中、ある事柄に対しては第二次世界大戦前後の暗い雰囲気が漂う。

秘密警察的な組織も見え隠れしたり、背後でうごめくモノがありそうだったり、最後まで物語は結末が見えない。まあ、エンディングは賛否両論あるだろうけど、私は気に入っている。

ストーリーだけではなく、この世界観を堪能する小説だろう。くしくも同時にヒューゴー賞を受賞したのが「ねじまき少女」という事が、読後に判明した時は運命を感じた。こういう事もあるんだよねぇ。
posted by 灯台守 at 10:56| Comment(0) | TrackBack(0) | SF