2011年10月22日

ぼんくら 日暮らし おまえさん

ぼんくら 日暮らし おまえさん 総括。宮部みゆき・著 村上 豊・絵

このシリーズは、捕り物帳ミステリの範疇にはいる小説である。でもトリックや犯人の意外性などのミステリ観点からみれば、歴代ベストに入るほどではない。(いや、トリックや犯人が意外では無いとか破綻しているということではないですが・・・)


#長いですので、続きに記載。

つまり、このシリーズはミステリを期待して読むと少々期待はずれになってしまう小説であるということである。とはいえ、捕り物帳がミステリとして求められる質が低いわけではないし、この話のミステリ的なレベルが低い訳でもない。もともとトリックや犯人の秀逸な捕り物帳もある。たとえば都筑道夫さんの「なめくじ長屋シリーズ」や岡本綺堂さんの「半七捕り物帳」などの一部は今の本格ミステリと比較しても遜色ない。でも、このシリーズは、捕り物帳の枠組みをうまく宮部さん流にアレンジし、人間ドラマに仕立てている。ミステリから一歩踏み出して、新たな味を加えている。

その新たな味を引き立てるのが、登場人物だろう。主役は、主役らしくないズボラを自認する八丁堀の同心・井筒平四郎。ユニークな登場人物の多い捕り物帳でも馬面の主役は珍しい。おまけに怠け者である。しかし人情に篤く、暖かな視線で江戸の街中を眺めていることがよくわかる。
そして、弓之助。美形の平四郎の甥という設定である。平四郎には子供がいないので、彼の奥さんの姉の子供という設定であり、五男坊という位置にある。その上、養子に迎えようという思惑も浮上しているし、弓之助もそのことは承知の上である。彼は美形の上、文中の表現を借りるなら「おつもりのでき」がちがう。本作での探偵役は弓之助であり、叔父さんである平四郎はワトスンというか、それ以下に近いかもしれない。これが単なるミステリならちょっと変わった構成どまりかもしれないが、主役二人の掛け合いが見事に物語を引っ張っていく。この弓之助、美形というところは「人形佐七シリーズ」に似ているが、似ているのは美形なところだけである。佐七は女性に対するいろいろな色っぽい話を広げているところに対し、こちらは子供であることをうまく使って広がりを作っている。さすが、宮部流の真骨頂である。

この二人に加え、お徳、政五郎、おでこ=三太郎 が三作を通じて登場し活躍する。とくにお徳の印象は強い。江戸のおかみさんであり、酸いも甘いも噛み分けた女性として描かれているが、「強い」かと思えば「自信無げ」であったり、人の世話を焼いていると思えば、きっちり説教をする場面もある。宮部さんの理想の女性像というか身近にいてほしい女性かもしれない。一方、政五郎はまさに理想的岡っ引きの親分である。気風もよく、粋であり江戸の香りがする男らしい描き方をしている。そして、おでこ=三太郎は3作を描くうち多少性格付けや描き方が変わってきているようだ。最初は多少「鈍い」という設定だったと思うが、三巻目になるとなかなかお兄さんになっている、これはきっちり意識して書き分けてあるのだろう。その方が自然である。

一応、三部作のようだが、まだまだ続く感じがする。弓之助は養子にはなっていないし、「やっとう」のお師匠にあたる佐々木先生の話も興味がある。数年後の再会に期待しつつ「おまえさん」を閉じることにしよう。
posted by 灯台守 at 19:27| Comment(0) | 時代物
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